ふと、エントランスに大勢の人がいることに気が付いた。
これだけ人が居たのに誰1人助けに入ろうとしなかったことにガッカリしつつ、そりゃナイフを持っているのが見えたら誰だって躊躇するなって独りで納得した。
「私は大丈夫です、それより柴咲さんを」
「ああ」
柴咲さんは男性が居なくなった今も恐怖から抜け出せないようで、綺麗なリップが塗られた唇をわなわな震わせている。
確実に彼女を狙ってやってきた男性。
約束があるというのは嘘で、ここで待ち伏せをしていた?
尚も震えている柴咲さんに、水瀬さんは「かおり」と呼び、背中にそっと手を添えた。彼女のことをそんな風に呼ぶんだ。
「もうすぐ警察が来ると思うが、話ができるか? 無理そうなら医務室に連れて行くが」
「……平気よ」
「本当に?」
「えぇ、貴司が傍にいてくれるなら」
「分かった」
ふらつく彼女を支える大きな手が見えた。
気丈に振る舞う彼女を心配そうに見つめる眼差しがあった。
そんなふたりの親密そうな雰囲気に気が付いたのは私だけじゃなく、「あのふたり、やっぱり……」といった囁き声がどこからともなく聞こえてくる。
居たたまれなくなった私は、そっとその場から離れた。



