わあ、何ともお気の毒。
開発企画部って、今忙しい時期だったかな? そうだとしても電話くらい取れるだろうに。
「私、探してきましょうか?」
「お願いできますか」
「お昼前に見かけたので、社に居ると思います。失礼ですけど、お名前を」
失念しないようにメモっておこうとスマホを操作しながら顔をあげると、男性は私の斜め後ろ辺りを見つめながら徐々にその目を大きく見開いていった。
何だろう? と、その方向を見ようとした刹那。
「ふざけんなよぉ、このクソ女ぁああああ」
耳をつんざくような怒号と共に、突き飛ばされた。
倒れはしなかったものの、2、3歩後ろへよろけて、何が起こったのかと見たところ、さっきの男性が柴咲さんの胸ぐらに掴みかかっていた。ガクガクと頭が動くほど大きく揺さぶっている。
これは一体……。
「痛いっ、離して」
「うるせぇ、ぶっ殺してやる!」
鬼の形相で柴咲さんに迫る男性は、胸ポケットからナイフを取り出して彼女に突き付けた。――危ない!
そう思った時にはもう、体が動いていた。



