なんて酷い話なんだろう。
水瀬さんの責任感と思いやりの強さを逆手にとって、社会的に圧力を掛けるなんて、それが上に立つ人間のすることか! どこの御曹司か知らないけど、苦労知らず金持ちのボンボンめ。というか、
「元、婚約者?」
「別れたみたいよ、本人がそう言っていたから間違いないわ」
「……そうなんですね」
話に夢中になっていたせいで、パスタはすっかり冷めていた。
どんなに熱く熱したしたものでも、時間を置けば冷めるというのに、水瀬さんと柴咲さんの気持ちは変わらなかったということか。むしろ、障害を乗り越えてより一層深まっているのでは?
想像すればするほど、胸が痛くなる。
(諦めるのは、まだ早いんじゃない?)
(会議室で抱きしめられてたのは何だったの)
(柴咲さんが婚約者と別れたからといって、水瀬さんとよりを戻したわけじゃない)
(そうかな、時間の問題でしょ)
頭の中では色んな考えが交差していて、心は文字通りぐちゃぐちゃ。
冷えたパスタは何とか口に入れたものの、パンとデザートはどうしても喉を通らず、お店の人の好意で包みに入れてもらった。
恋愛もダメで、仕事もダメ。
そんな私に何の魅力があるんだろう。



