ふふっと耳元で笑う声がした。
息遣いはおろか鼓動の音さえ感じ取れるこの距離で、私は顔を赤くすればいいのか泣けばいいのか分からず、首の下でクロスしている水瀬さんの腕に手を添えようとしたとき。
右の肩あたりに、ブブブと震えるものが当たった。
水瀬さんの胸ポケットでスマホが鳴っているらしい。
「分かったすぐ行く」
スマホを耳に当てながら私の肩を押し、部屋から出ていく。
その姿を目で追いつつ、床にへたり込んだのは言う間でもない。
*
「残念だったわね、企画。大変だったでしょ」
「いえ、彩さんのところも」
藤原と同じ営業部の彩さんは、ここ数日廊下ですれ違っても声を掛ける暇もないほど忙しそうで、それに比例するようにげっそりしていく姿に心配していたのだけど。
ようやく落ち着いた金曜日、ランチに誘ってくれた。
社員食堂もいいけど、気晴らしに外へ行きたいということで、最近できたばかりだというパスタ屋に向かった。
「エミノスさんはどうなりそうですか?」
「うーん、どうかなぁ。できる限りのバックアップはしたいと思っているんだけどね」



