「ちょっと来い」


あっと気が付いた時には、水瀬さんに引っ張られて廊下に出されていた。

そのまま使われていない会議室へと連れられ、中に入ったと同時に彼は部屋の窓ガラスをすべて不透明に変えた。4畳ほどの小さな部屋は机もなく、ホワイトボードと丸椅子が置いてあるだけだ。

そこへ座るように促された私は、営業部で聞いてきたことを水瀬さんに話した。


「そうか、まさかあの結城社長が飛ぶとはな」

「お知り合いですか」

「何度か会ったことがある。それで、どうしてお前はそこまでショックを受けている? 企画案が潰れて悔しく思うのは分かるけど、さっきの顔はこの世の終わりみたいな顔だったぞ」

「それは……」

「どうした、ちゃんと言ってみろ」


諭されるような優しい声。

水瀬さんは、元気がなかったり様子のおかしかったりする同僚を、時々この会議室に呼んでは話を聞いてあげている。そんな部下想いの人とあと数週間しか一緒に働けないなんて……。

何より、もう会えなくなるなんて――。


「本当にあと数週間で結果が出なければ、首になっちゃうんですか?」

「どうして、それを……」