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「高木ちゃん、ここの見積もりどうなってる?」
「あ、それは――」
今春新作イベントの企画案は、恐ろしいほどに順調だった。
事前にいくつか問題ありだとされた箇所も代案で上手く切り抜けることができ、同僚たちの誰もが「これはイケる」と確信を持ち始めた頃、事件が起きた。
「どういうことですか? 説明してください!」
内線の受話器を持つ森本さんの手が震えている。
険しい顔つきが徐々に弱々しいものとなり、通話を終えた彼女は項垂れた。
「……エミノスさんからNGが出たそうです」
「NG!? どういうことだ」
「企画の趣旨とエミノスさんの意向が相違しているから、とのことですが、営業の人が言うには最近、エミノスさん側で問題があり、しばらくメディアに顔を出したくないのではないかと」
「それだと、いくら企画を練り直しても駄目だということだな」
「おそらく」
あぁ……と、悲鳴にも似た溜息が漏れる。
同僚たちはもちろん、水瀬さんも落胆を隠しきれず、厳しい表情のまま最悪の連絡を受けたばかりの内線を見つめている。
唯一空気の読めない部長だけが、「諦めるのは早いぞ、代理のサロンを探そう」と言うけれど。



