もう、だから箸で刺さないでってば。
腕時計を外すようなことって、外すって、例えば手を洗う時とか、炊事をするときとか――――シャワーを浴びる時。
まさかね? って彩さんと藤原の顔を交互に見たけど、ふたりは胸糞悪そうにそれぞれのグラスを空にした。
「俺、ああいう計算高い女、苦手っす」
「よく言った藤原! お姉さんが今日は奢ってあげるから飲みな」
「あざーす」
「ちょっとふたりとも飲みすぎですよ」
藤原が眺めているメニューを取り上げる。
明日も仕事があるんだからほどほどにしてくださいね、と釘をさしたところ、改まった様子の彩さんに「紗夜ちゃん」と名前を呼ばれた。
「貴司のこと、諦めたりしないわよね」
「……分かんないです」
「分かんないって、弱気になっちゃダメよ」
「違うんです、今は恋愛云々より仕事というか。頑張りたいんです、やれることを全部やって自分に自信を付けて、少しでも水瀬さんに近づけたらいいなって」
「紗夜ちゃん……変わったのね。初めて大阪で会った時は恋愛しか興味のないお嬢さんかと思ったけど」
「実際そうでした、本音を言うと今も恋愛が1番大事です」