「あの、ありがとうございます。心配してくれて嬉しいです」
「今日はお前のおごりな」
「え! デートに誘った方が払うものでは?」
「誰がデートなんて言った?」
ちぇ、やっぱりそうだよね。
分かってますよーだ、と口を尖らせ白身魚のフライを箸で摘まむ。しかし、美味しいなここの料理。
「まぁ、でも次もこういった店でいいなら考えてもいい」
え!
いいいい今、なんて言った?
白身魚のフライから水瀬さんへと視線を移すと、3本目のビールを美味しそうに飲んでいるところだった。ごくごくごく……って、相変わらずピッチが速いな。
ジョッキの半分ほどで飲むのをやめた彼は、口の回りに付いた泡を舌で舐めとった。
ほんのり頬が赤くなっていて、何とも色めかしい。
「あの、今、次って」
「俺、実はこういう店が好きなんだよ」
「え」
「畳があって、ちゃぶ台みたいなボロボロのテーブルがあって、趣味の悪い暖簾が掛かってて、」
ちょっと、声が大きいですよ。
女将さんたちに聞かれちゃったらどうするんですか!
慌てた私は水瀬さんを黙らせるためにも里芋のにっころがしを1つ掴んで口の中に押し込んだ。すると、彼は目を丸くさせ「うまいな」と頷く。
「一見汚く見えるけど綺麗に掃除されてて、座布団なんか破れたところをまた縫ってまた使ってるんだぜ。実家にいるみたいで落ち着く」
「あっ、それは分かります。居心地よくてずっと居たいくらいです」
「高木なら、そう言うと思った」



