「え?」

「だから、あの男みたいな、いや男だろ。ニューハーフといっても男とルームシェアしてるって大丈夫なのか?」

「……」


水瀬さんが連れて行ってくれたのは、何とも懐かしい匂いがする居酒屋だった。

人の良さそうな和服姿の女将さんに招かれ奥のお座敷に座ると、そこから良く見えるカウンター席の向こう側から、ねじり鉢巻きをした如何にも頑固そうな大将が「らっしゃい」と声を掛けてくれる。

所狭しと壁に貼られたメニューから適当に注文し、お通しと生ビールが運ばれてきたところで、水瀬さんから冒頭の質問をされたのだ。


「あの、あの日はたまたまあんな恰好してましたけど、昌也は至って普通の女の子ですよ」

「え、女なのか」

「いや、男ですけど、身も心も女なんです」


なんていう会話をしているんだ。

焼き鳥の盛り合わせを運んできてくれた女将さんがクスクス笑いながら、厨房へ戻っていく。喉が渇いていたこともあってビールが進む。水瀬さんも既にジョッキの半分ほどを飲んでいた。

緊張がほぐれたこともあり、口が勝手に動き出す。


「ああ見えて昌也は、私より女らしいし、気も利くし。友達想いの良い奴なんです。今の世の中、ニューハーフに対して寛容的になったとはいえ偏見があるのは分かりますけど、見た目で判断されるのは心外です」