しまった、見失った。
進行方向へ足を勧めながら水瀬さんを探すけれど、どこにいるのか全く分からない。運悪く、今日はこの近くのホールで人気アイドルのコンサートがあるようで、若い男の人が大勢いる。
この中じゃ、いくら水瀬さんの背が高くても埋もれてしまうよ……。
――――と。
「高木」
人波を掻き分けるようにして戻ってきてくれた水瀬さんが、こちらに手を伸ばす。その手を掴んだ瞬間、ぐいっと引き寄せられ、彼の胸に頬が当たった。
掴んだ手はそのまま、背中にもう片方の手が添えられる。
ふわりと、爽やかな香水の匂いがした。
「人が多すぎるな、遠回りになるけど向こうから迂回しよう」
「ですね」
「どうした、涙目だぞ」
だって、だって嬉しかったんだもん。
水瀬さんとはぐれてしまって不安だったけど、戻って来てくれて、手を掴んでくれて、ほんの一瞬、ハグ程度だったけど抱きしめてくれて、優しく微笑んでくれて。
これは、もう昌也の言っていた通り、脈ありってやつでしょう?
やっと私の想いが通じたんだよね?
――――そう思ったのに。



