「え、いいよ重いから」
「重いから持ってやるって言ってんだよ。つーか、まじ重いなコレ」
「ファッション誌とか色々入ってるから」
「デートのために必死だな。お前の上司もうまいよなあ。豚の鼻先に人参をぶら下げたら、必死で走るっていうアレか」
「ちょっと、それを言うなら馬でしょー」
ふくれっ面をした私に、藤原は一瞬だけ目を細め優しい顔をした。
え、なに、その表情。
不覚にもドキッとしてしまった自分の胸を押さえ、藤原のくせに、藤原のくせに、と呪文のように呟いたところ、その藤原に肩を掴まれ壁の方へ追いやられた。
視界は、彼の肩がぼやけて見えるくらい近く、何するの?と言おうとしたところ、「しッ!」と遮られる。
次の瞬間、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「どうだね、調子は」
「まぁまぁと言ったところです」
「明快な答えじゃないね」
この声って、部長と……。
「時期、期待に応えられるかと」
水瀬さん?
今日はてっきり帰ったと思ったけど、まだ居たんだ。それよりもこの会話ってどういう? 2人の話をもっと聞きたくて1歩前に出ようとした私を藤原が後ろから止める。
私たちはエントランスの少し手前、喫煙スペースにいる部長と水瀬さんからは見えない壁の角に身を潜めている形で立っている。



