余命まで、あと一週間。

私はかけると初めての病院デートをした。

病院内でも、関係ない。

かけるが一日中側に居てくれることが嬉しかった。

もう、死ぬから、医者から名一杯したいことをすれば良いと言われた。

だから、かけるが私の大好きなコーヒー牛乳を買ってくれた。

かけるも一緒のを買って、一緒に飲んだ。

こんな楽しいこと、生まれて初めてだ!



次の日。

神様は決して優しくなかった。

私の病気の症状は、更に酷くなった。

辛い。

苦しい。

私は酸素マスクをつけ、点滴をうけた。

死にたくない。

せっかく、かけると両想いになれたのに…


かけるは私を心配してすぐに駆けつけてくれた。

手には花がにぎられている。

私は思わず微笑んだ。

「花、持ってきてくれたの?」

マスクのせいか、とても喋りにくかった。

それでも、かけるは聞き取りにくいはずなのに、

ニコッと笑って話を聞いてくれた。

「これは、全部幸せを呼ぶ花なんだ。」

幸せを呼んでくれるんだ。

でももう、充分幸せ。

強いて言うなら…

もうちょっと学校に行きたかった。

青春というのを学校でしてみたい。

私はこの間、病院内で文化祭のチラシを拾った。

文化祭なんて、THE青春だ!

私だって歌って、文化祭の出し物を見て、たこ焼き食べて。

かけると、皆と、いたい。

チラシでは最後に桜のイルミネーションが見れるとも書いてあった。

きっと綺麗だろうな。

「かける。」

「文化祭行きたい。」

私は思わず声に出してしまった。

でも、そんなに後悔ほどにはいかない。

これが、私の本音だったから。

でも、かけるの方を見ると悲しいかおをしている。

「さくらは駄目だよ。」

「安静にしないと。」

あぁ、かけるは私の気持ち分かってくれないのかな…

私は空を見て黙りこんだ。


次の日も、症状は酷かった。

嘔吐が激しく、とてもかけると会える元気は無かった。

私はかけると会うのを止め、かけるが持ってきてくれた花を見ていた。

はぁ、明日は文化祭なのに。

私も元気だったら…

かけると、文化祭デートみたいなのできたのに。


私はその日なかなか眠れなかった。

かけるが、明日迎えに来てくれたりして!

とか、そんな有り得ないことばかりを考えていたからかも知れない。

ゴホッ。ゴホッ。

今日は咳が酷い。

こんなときに風邪?

ゴホッ。ゴホッ。

ゲボッ…

…!?

私は驚きが隠せなかった。

咳をおさえていた手に、ベタっと血がついたからだ。

どいしよう。

私は泣き、焦り、ナースコールを奮えた手で必死に押した。


文化祭の日。

あの後薬をのんだおかげか、症状は少し落ちついた。

でも、予想通り、かけるは来てくれなかった。

いや。でも…

もしかしたら、合唱が終わってから来てくれるかも…

私はかけるを待ち続けた。


けれど、待っても待っても、かけるは来てくれない。

もう、夜。

今頃、桜のイルミネーションの頃だろうか…

何故か、涙が出てくる。

行きたかったなぁ…

ピロンっ。

そのとき、メールの着信音が聞こえた。

あっ、かける!?

ん?

外を見て?

私はかけるのメッセージを読み、外を見た。

!?

「かけるに、うまくん、じんたん、つきちゃん、ひーちゃん!?」

外を見ると、そこには皆が立っていた。

すると、かけるがいきなり大声で歌い出した。

「僕の想いよ届けー」

「君のー元へー」

これ、文化祭の合唱曲!

かける、歌いに来てくれたの…?

「僕の希望よ届けー」

「君のー元へー」

かけるに連れて、皆も歌ってくれた。

どうしよう。

涙がとまらない。

私も、必死に一緒に歌った。

「僕の想いよ届けー」

声がかすれても必死に歌った。

これが、最後のような気がしたから。

皆をみると、私よりも泣いてくれていた。

嬉しかった。

かけるが、皆が、会いに来てくれて、本当に嬉しい。

「さくらー!」

そのとき、うまくんの叫ぶ声が聞こえた。

「俺はお前が好きだー!」

「でも、お前はかけるが好きって知ってた!」

「だから、俺は今のお前を諦めて、来世のお前にもう一度恋する!」

「ちゃんと、元気に戻ってこいよな!」

うまくん…

ごめん。

優しいうまくん大好きだよ。

「俺はー!」

「お前が無理してるのは知ってる!」

「でも、一人でかかえるなー!」

「俺たちがいるからなー!」

じんたん…

本当にありがとう。

「さくらー!」

「あんたは、優しすぎて、お人好しだから…」

「私は…あんたと別れたくない!!」

「さくらとずっと!一緒にいたい…」

「すぎだよ。さくら!」

つきちゃん…

「さくらー!」

「さくらはもっと、もーっと幸せにならなきゃいけない!」

「だから、死んでも負けんなー!」

「怖くない!私たちはずっとさくらを信じてるから!」

「笑えー!!」

ひーちゃん…

私は悲しさに耐えられず、その場にしゃがみこんだ。

辛い。

こんなに皆が私を応援してくれた…

嬉しい。

でも、別れたくない…

「さくら。」

「俺はお前が死ぬのがまだ、信じられない。」

かける…!?

かけるの声だ。

「でも、俺はお前と出会ってから、何かが変わった。」

「お前と出会ったことで、幸せというのが分かった。」

「俺を救ってくれたときも、お前がいたから、生きたいと心から思った。」

「お前は俺と同じ気持ちか?」

「俺はお前と別れるのが辛い。」

「でも、まだ、お前はここにいる。」

「まだ、お前は生きてる。」

「幸せを分かち合える。」

「俺にとって、お前は幸せそのもの。」

「だから、お前が笑うと、俺も、皆も、笑いあえるんだ。」

「笑おう!まだ、幸せはある!」

「ずっと、一緒に、どこにいても!」

「笑っていよう!!」

かけるはそう言って、涙を流しながら笑ってくれた。

こんなに、思いを伝えてくれたことが、とっても嬉しい。

私も泣きながら

「うん!」

「皆ありがとう!」

と叫んだ。

皆笑ってくれている。

すると、

「これは俺たちからのプレゼント!」

と、かけるが何かのスイッチを押した。

すると、夜空の中、鮮やかなピンク色に染まる桜が見えた。

イルミネーションだ…!

その桜は今までに見たことのない、優しい光と色で輝いていた。

私は涙をぬぐった。

「私、桜を見たかった!」

「もう、心残りなんか何もない!」

「皆が会いに来てくれて本当に嬉しい!」

「私、皆が大好きだよ!」

「桜は、誰もを幸せにするって言い伝えがあるの。」

「皆を照らし、相手を心から幸せにしてくれる。」

「私にとってそれが皆だよ!」

「私を幸せにしてくれてありがとう!」

「私と出会ってくれてありがとう!」



その日の夜に咲く桜は、まるで私たちを照らすような

星桜

だった。


この日のことは一生忘れられない。