「阿呆。皇太子殿下がそんなことをおっしゃるわけがない。言ったのはルベルの馬鹿だ」
アベリスの向側のソファにどさっと座りながら忌々しげにラディンは吐き出す。
「ルベル……ねぇ。ということは皇太子殿下の所まで話がいってないかもねぇ。……君、殿下とは個人的に親しいじゃない。私信でも出してみたら?」
「あのな、そういうことじゃねぇの。第五のファゼルがこのところ『港』に出入りしようとしてたらしい。つまり、奴らは動いてる。なのに俺達が動こうとしても許可がでねぇ。つまり、くだらない足の引っ張り合いで事件が放置されているも同然だっつー状況に我慢ができねぇの。わかるだろ?」
「どうせ港に行ったって何もできないでしょ、あの人たち馬鹿だから」
クス、と口の先で笑いながら長い足を優雅に組み変える様はどう見たって王侯貴族の所作。
「だーかーらー!ファゼル達が動いて解決に向けて動き出すなら俺だって別にそれでいいんだって!!!どう動いたってあいつ等には無理だから俺達にもやらせろって言ってんだ!!それを!ルベルの阿呆が!俺が気に食わねぇのと民の問題は別じゃねぇか!それを!」
「まあまあ。落ち着いて。ほら、深呼吸、深呼吸」
「真面目に聞きやがれっっっ!!!」
がつんっっ
執務室の机はラディンの鉄拳により思いっきり砕けた。
「あーあ……またかい。これで四度目だよ?」
呆れつつも楽しそうにアベリスは笑った。
