「来ていたのか……」


半ば脱力しながらラディンが目を向けた先にいるのは、肩にかかるまで伸ばしたまっすぐな赤髪、菫色の瞳を持ち、優雅に紅茶を飲んでいるアベリス=レンドルの姿があった。


暢気な口調に優雅な仕草。

およそ騎士団などという武を競うものには縁のなさそうな優男風なのだが、これでも第三騎士団の副団長、つまりラディンの片腕としてラディン同様、団員達からは一目も二目も置かれている。



「例の件でご立腹かい?」


柔らかな笑みは今までラディンが頭に上っていた血が一時とはいえ、すっと冷静にさせるものがある。


「ああ。『海』での事件は所詮自業自得、騎士団がわざわざ出向く必要もなければ、その方策もない………だとよ」


「おや、随分とはっきりしたご意見だねぇ。それ、まさか皇太子殿下の台詞じゃないだろうねぇ」


一瞬キラ、と不穏な光がアベリスの瞳にともった。