『グリューン』は長い長い時の中で畏敬の対象であった。

大陸の人々が決して知り得ない智慧を持ち、そして尚且つ、大陸の人々が持ち得ない外見上の特徴を持っていた故に。



そして、神々の使いと呼ぶにふさわしく、彼らは人々に騒乱をもたらそうとはしなかった。


例えば、海で得られる貴重な物資―鉱物であったり、宝石であったり、薬であったり―を元に大陸を支配しようとするようなことはしなかった。



彼らはただ、自分達が生きるためだけに商うことだけを旨としていたようだった。



『グリューン』はただ、そうやって生きていただけだったのだ。





しかし、ある時、大陸の内一つの国が騒ぎ出す。


「海にある富をグリューンが占有するのはおかしいのではないか」と。


やがて根も葉もない噂が噂を呼び、海からもたらされる富、貴重な資源によって、大陸の国々はグリューンにいずれ陸を支配するつもりなのではと疑心暗鬼となる。


そして、大陸はかつてないほどに一つにまとまる。

即ち、「グリューンの民は陸の国々に支配されるべきだ」という思想の元に集った。



各国は先を争うようにグリューンの民を狩り出す。

商いの為に上陸をしていた民は何の警告も受けず、ただ欲の塊と成った各国に狩られ続けた。

ただ、「グリューンの智慧」を得るためだけに。


そして海に散っていた民も、誘き出され、あるいは脅され、次々と狩られていった。