「私も武史さんも、無理にこのお話を進めるつもりはありません」

そう前置きして、腕組みしたまま目を瞑り座椅子に胡坐をかいたお父さんの代わりに、お母さんがやんわり話を続ける。

「ただ相手のかたも、誠意を持ってわざわざ当家まで足を運んでくださるんですから、瀬里もそれなりの誠意できちんとお答えなさい」

「・・・はい。分かってます」

「何であれ瀬里の幸せを家族は望んでいますからね。それは忘れないように」

しっかり頷き返せば、艶やかな微笑みが返った。

「それじゃ早速、瀬里は着替えなさいな。お振袖、用意してありますからね」

「やっぱり着物じゃないとダメ?」

恐る恐る。だってアレ苦しいだけなんですけど!

「もちろん」


この家で最強なのは怒った組長でも、絡み酒の幸生でもなく。何を隠そう瑞恵ママの、この、にこやかな笑顔です・・・・・・。