メインがスイーツになってたくらい、二人であれやこれや手を伸ばし。
テレビでも良く見かける歌舞伎役者の話だとか、有名俳優の舞台の感想だとか、お母さんの趣味の観劇の話で盛り上がる。

料理は星が付くほどの本格さは無かったものの、90分の時間制限いっぱいに満足できた。

「今度は飲茶がいいわねぇ。また付き合ってちょうだいな瀬里」

「うん! いつでも誘ってよ」

お店を出ると、入り口の近くで待機してた井沢さんがすぐに近寄ってきた。

「このままお帰りになりますか」

訊ねられたお母さんは、「そうね」と相槌を打つ。

「瀬里は明日も仕事だし送ってちょうだい」

「かしこまりました」

まるで社長秘書のように丁寧な受け答えで井沢さんはわたし達を先導し、エレベーターに乗り込んだ。

井沢さんとお母さんは歳も近くて、自分が子供の頃からもうこの主従関係だった。お父さんが口を挟まないくらい、覆らない信用の上に成り立ってる固い絆って言ってもいい。

役目を徹底して全うする彼と、任せて委ねてるお母さん。二人を見ていて少し羨ましかった。まだ、わたしと凪にはそこまで絶対って言えるものがない気がして。・・・そんな心許なさを振り払うように。きゅっと掌を握りしめた。