隣りじゃなく、二つ空けてスツールに浅く腰掛けた凪はコートも脱がないまま。長居は無用だと無言のオーラを放ってた。


「待たせてごめん瀬里。急な用事が入っちゃってね。・・・大島も悪かった」

20分ほどしてバックヤードの方から姿を見せた晶さんは、首元にストールを巻いたジャケット姿で。相変わらずの綺麗な顔立ちに、笑みを覗かせた。

目礼で返した凪の表情も、変わらないポーカーフェイス。気配は至って冷静だった。

「千也、俺にも軽いの」

言いながら晶さんはわたしの隣り、つまり凪との間を遮ってスマートに腰掛ける。

「やっぱり瀬里の顔見ると落ち着くな。会えて嬉しいよ」

こっちに体を傾け、目を細めていつになく無邪気に笑うから。言葉に詰まって、曖昧に笑み返すしかなくなる。

「瀬里も俺といる方が優しく泣けるだろ?」

さらに包み込むみたいに。
凪に。わざと聴かせてるの? 思わず顔を歪めた。

「だから結婚しよう瀬里。好きだよ。・・・愛してる本気で」

息を呑んだ。まさかのプロポーズに。

わたしが何を話に来たのかを承知で。こんな帰り路の塞がれ方をするなんて。
思ってもなかった。愛してるって・・・そんな。思考回路がフリーズして、ブーツを履いた爪先まで固まる。

晶さんの真剣な目が。わたしの奥底を微かに揺さぶってるのが分かる。
凪がいる。
首を横に振ればそれで終わりなのに。

動けずに。晶さんを見つめ返すだけの自分がいた。



どうして。いつも晶さんからなの。
どうして。凪じゃないの。

欲しいものを先にくれるのは。