『少しだけ会いたい』と連絡した時。『いいよ』、とスマホの向こうから晶さんの変わらない涼やかな声が返った。

少しだけ、の意味を察していたのかどうか。待ち合わせは夜の7時にメテオ。早い時間だから他にまだお客はいない。
いつもお店の入り口でわたしを見送った凪は、スーツに黒のトレンチコートを羽織った格好で初めて店内に足を踏み入れた。

「いらっしゃいセリちゃん。・・・とオオシマさん、かな?」

美形のバーテンダー、千也さんがにっこり笑って、カウンター前の席を勧めてくれる。

「ちょっと遅れるけどゴメンネ?」

晶さんのことを言って爽やかに謝られ。お詫びの代わりに、シンガポール・スリングが目の前に置かれた。美しいシンガポールの夕焼けをイメージした、トロピカルカクテル。ジンベースでとても飲みやすい。

凪の前のは多分ペリエ。何も訊かずにノンアルコールが出てきたことと言い、晶さんも最初から分かってたってことなんだろう。