『どうして』? 分からない。ただなんだか。

「約束できますね。二度と高津には会わないと」

まだわたしの中でも漠然としていた迷いだったのか、それとも心残りのようなものだったのかを、凪は見透かしたように。
淡々とした口調なのに気圧されて。言葉を継げない。

「・・・お嬢を渡すつもりはありませんよ」

靄がかった中を一瞬で射貫かれた気がして。俯かせてた視線をもう一度向ければ、凪の不透明な眼差しと交差した。
顎にかけた手を引き、無言で立ち上がった凪は目礼してキッチンに戻っていった。



晶さんには渡さない。言われて、胸に感じた痛みに似た切なさ。
そっと振り返って凪の背中を見つめながら。どこか泣きたい気持ちがしていた。