昨夜のことをこれ以上朝食の話題にするつもりも無かったから、その後は今日の天気を訊いたり自然体でいられた。・・・と思う。

身支度を整え、だいたい変わらない時間にマンションを出る。
雲が広がって薄日が射す、秋も終わり間近の空がパノラマ写真みたいに。車のフロントガラスに切り取られて目に映った。ついこないだまで灼熱の夏だったのに。

それをしばらく眺めてから、わたしは凪に言った。

「お父さんのことは心配しなくていいから。・・・変なこと考えないでね?」

「・・・・・・・・・」

ハンドルを握る凪から横目が流れて。一段低いトーンで返った。

「・・・それは男が言うことでしょう」

「凪は生真面目だから言っておきたかっただけ」

さらりと躱して。

責任だとかそんなもので凪を縛りたくない。ここから先は『お嬢』の役割なんだと、自分では思ってる。お父さんにちゃんと気持ちを話して、筋を通して。

「誰にも何も言わせないわ。だから凪は信じてて」

きっぱりと言い切ったわたしを。差し掛かった信号待ちで、凪は一瞬目を見張り、僅かに眇めて逸らした。

「・・・どうしてそこまで私を?」