もそもそと口の中のパンを飲み込み。カフェオレで喉を潤してから。わたしはおもむろに。

「凪」

「はい」

「・・・その」

ちょっと目が泳ぐ。

「えーと。・・・・・・・・・ありがと」

云いたかったことは別だった気もする。けど。気が付けば、そう口にしていた自分。

凪の葛藤も、凪の立場も分かっていたから。それ以上追い詰めたくなくて晶さんに寄りかかってた。裏腹に。凪にそれを見せつけたら、取り返しに来てくれるんじゃないかって。そんな歪んだ思いもあった。

苦しかった。・・・凪も同じだった。

組長の娘の弾除けとしてあてがわれた世話係。凪があれだけ頑なに引いてた一線を越えることは。簡単なんかじゃないのは、わたしが一番知ってる。

だから。『ありがとう』。他の言葉は思い付かなかった。

反応を窺うように泳がせた視線を戻せば。感情の読めない眼差しとぶつかる。

「・・・・・・礼を言われるとは思ってませんでしたので」

ややあって低く呟くように凪が言った。眸の奥を微かに揺らして。