「父に・・・お見合いを勧められたんです」

アキラさんは黙って耳を傾けてくれた。

「頭で考えるより先に断ってました。・・・好きな人がいるって。答えが変わらないのなんて分かってたのに、フタをして逃げてただけで。だからもう一度・・・自分の気持ちを伝えたんです」

「・・・彼は答えてくれた?」

長くて男の人にしては綺麗な指が伸びてきて、頬を滑りそっとなぞる。
わたしは小さく首を横に振った。


『・・・凪が好き』

二度目の告白。

凪の誕生日にした一度目は、凪との間に自分では思ってもなかったガラス張りの厚い壁があったことがただただショックで。
高二の時から傍にいるんだから、凪はわたしの気持ちに気付いてたはずだし、言わなくても。凪はそれを受け止めてくれてるんだと思ってた。

二人で暮らし始めて、社会人としてもようやく慣れて。少しは自分も一人の大人として成長できたって自信もついた。凪にちゃんと言葉にして伝えて、そうしたらお父さんにも正式に報告に行こう。・・・夢見がちに舞い上がってた。

『・・・・・・今の私では、応えられません』

凪は低く、やっぱり二度目もそう言ったけど。

凪が越えられないなら。わたしから、ガラスの壁を壊してみせる。それが今の自分が通したい筋に思えた。