お父さんは、きっぱり言い切ったわたしをじっと見て小さく肩を竦めた。

「先方は瀬里を気に入ってるらしくてな、気長に待つらしい。俺の方でしばらく預かっとくから、気が変わったら言いな」

「瀬里姉、“滑り止め”が確保できて良かったな」

人が悪そうにククッと笑いをくぐもらせた幸生を横目で睨む。

「ならこの話は一旦、仕舞いにする。久々に花爛(からん)で、メシでもどうだ。瑞恵(みずえ)も向こうで落ち合う」

お父さんが座卓に手を付きながら体を揺らして立ち上がり、わたし達も続いた。

居間から廊下に出ると凪が少し離れて立っていた。お父さんと幸生が通り過ぎるまで頭を垂れて。わたしが歩み寄っていくと、顔を上げて相変わらずのポーカーフェイス。

「車の用意は出来てます。・・・行きますよ」

「・・・凪」

名前を呼べば視線だけが返る。

「お見合いなんかしないから」

刹那。闇色の眸が僅かに波打った。気がした。
だけどすぐに消え、向けた背中を。わたしはどこまでも追うように。見つめてた。