凪がどういう経緯で春日組に来たかは知らない。17歳のわたしより6つ上の23歳。あの頃は分かりやすいチンピラ風味だった。長めの金髪に黒いシャツ着て、黒のズボン。首には18金のチェーンネックレスみたいな。

通学の運転手も凪の役目だったから、父にも言われたのかも知れない。髪も短く黒くなってスーツ着てるのを見た時、別人かと目を丸くしたのを今でも鮮烈に憶えてる。

冷めきった機械のような眼と、全く喋らない無口。最初なんて、わたしが『おはよう』って挨拶しても目礼するだけで返してもくれなかった。
さすがにそれって人間のオトナとしてどうなの?!、って思ったわたしの最初の命令は。

『おはよう、いってらっしゃい、おかえりなさいは、ちゃんと言ってください!』

学校に着いて車から降りる時、わたしは必ず「いってきます」、迎えの車に乗る時は「ありがとう」を言い続けてるのに、会釈と目礼だけで一向に返って来ない。

自分でもどうしてそんなに意地になったかよく分からないけど、とにかく凪に言わせたかった。
ちゃんとわたしを見て応えて、素通りになんかしないで!って。

今思えば。出会った頃からわたしは凪を、無意識に意識してた。・・・恋とも知らないで。