凪がわたしの世話係兼ボディガードになったのは、高校二年生くらいだった。

広域指定暴力団、櫻秀会(おうしゅうかい)配下の春日組は。父で三代目の、いわゆる地元やくざだ。
昔はどこにも属してなかったらしいけど、時代の流れで生き残る為の変革は必要だったんだろう。それでも広いだけが取り柄の古い屋敷には、今でも大人数が住み込んでるし、それなりの威光は保たれてる。

3つ下の弟が跡継ぎに決まっているから将来も安泰で、娘のわたしはただ可愛がられただけというか。子供の頃から、色々と叩き込まれた幸生(こうせい)と違って自由に育ったと思う。

家のことは近所には知られてるから、学区外の小中高一貫の私立学校に車で送り迎え付き。クラスメイトと遊ぶのを禁じられたわけでもなく、これといって窮屈でもない日々を過ごしてた。家業は絶対に口にするなって厳命だけ守って。


そんなある日。父がわたしに凪を引き合わせて言った。

『今日からこの大島が瀬里の弾除(たまよ)けになる。どうにでも使っていいからな』


その時の凪の眼は、ひどく冷めきってた。
何も見てないみたいに、目の前のわたしすら突き抜けて。・・・仄暗かった。