「・・・お帰りなさい」

「・・・・・・ただいま」

靴を脱いで上がり、そのまま自分の部屋に。
凪は中には入らないで入り口から、バッグをクローゼットに片付けてるわたしの背中に低く声を掛けてきた。

「風呂は沸いてますから」

「・・・うん。ありがと」

何でもないように答えて。振り返ったら目が合った。
一瞬。後ろめたさに、逸らしたくなったのを堪えて。

「ごめんね凪。夜ご飯、食べられなくて」

無理やり笑った。
いつも職場に迎えに来る前に、ある程度の仕込みを終わらせてるのを知ってる。だから結衣子に誘われた時とか、早めにラインで伝えるようにしてた。
きっと今日も用意してあったはずなのに。

「・・・それは構いませんよ」

静かに返る。

「ですがこれきりです瀬里お嬢。次は、帰れという命令には従い兼ねます」

凪は闇色の眸でわたしをじっと見据えて。はっきりと告げた。