春日組と親交があり、かつ一ツ橋の配下でもある支倉の現組長を通して見合い話を持ち掛けたのは、瀬里を追い込んで試したかったのだ。大島凪の出方次第で、彼女を自分のものにする自信は晶には絶対的にあった。

女心の機微には聡いほうだ。大事に包んでやればやるほど、瀬里は惑いながら無防備をさらす。震えながらも抗わなくなる。羽を傷付けて跳べない蝶。誰かに身を委ねる以外、癒す術を持たない。庇護欲を掻き立てられた。本気で手離したくなくなるほどに。

「・・・俺ならもっと優しく泣かせるよ」

晶が不意に言った。

千也は手元から視線だけ上げて彼を窺う。頬杖をつき顔を斜めに傾けた表情は半分隠れていたが、さっきよりもずっと遠くを見ているようにも思えた。

相槌は打たずに黙って聴いていると、独り言のように晶は続ける。

「独りで泣かせたりしない。・・・・・・最期まで抱いて俺の中で死なせてやれたのに」

それが誰を指して言った言葉なのか、推し量れもしない。けれど。晶の綺麗な仮面の下に、何かが巣食っているのを見抜いていない千也でもなかった。

闇というより深い底。傷みというよりは悲しみのようなもの。人は多かれ少なかれ、誰でもそんなものを抱えて這いずっているのだ。意味も理由も晶に問うつもりは無いし、この先もないと千也は思う。