『・・・では私のことは呼び捨てにしてください』

ずっと自分と居ろと子供らしい願い事を言う瀬里に、凪が咄嗟に交換条件紛いの要求をしたのも。もっと、瀬里から自分への距離を詰めさせたかった愛欲の裏返しだったとは言えないだろうか。

『・・・・・・・・・大島さんの下の名前って?』

難しそうな表情で考え込んでから訊ねた瀬里は、なぎ、という響きが一瞬で気に入った。

『いい名前ね!』

少女は歌うように繰り返し、その時から二人の間が少しずつ変化し、色を変えていった。


瀬里がフルーツタルトを選んだのは思い付きで、深い意味があった訳ではなかった。
ただ。ずっと自分の傍にいてくれると約束をしてくれた、きっかけになったことがとても嬉しかった。それを凪に忘れてもらいたくなくて毎年、贈り続けたのかも知れない。

これからは自分で、凪の誕生日にフルーツタルトを焼く楽しみも増えた。甘いものはそんなに得意じゃなさそうだから、来年も色々と工夫してみようと、瀬里は、珈琲を飲んでいる凪を覗き見しながら胸の内で微笑みを零した。