「今年は自分で焼いてみたの」

食事のあと切り分けられて出てきたのは、苺にキウイやブルーベリー、柿や桃が惜しげもなく詰め込まれたフルーツタルトだった。
去年とその前は、本条からのSNSで凪には写真が送られてきた。

『瀬里お嬢の気持ちを絶対に無駄にするな』

そんな激励の言葉が添えられていたのを思い返す。

凪は取り立ててフルーツタルトが好きという訳でも無かった。
甘いものは全般的に好まない。ただ特別なだけだ。瀬里にいきなり、誕生日だからとケーキの箱を押し付けられた9年前から。

「・・・どう?」

瀬里が心配そうに、フォークを口に運んだ凪を見やる。

キウイと柿が割りと口の中でさっぱりとして、思ったより甘みも弱い。リキュールの染みた薄いスポンジケーキがタルト生地とフルーツの間に敷いてあって、記憶を辿っても一番美味いと凪は素直に感じた。

「・・・美味しいですよ。本当に」

「良かったぁ・・・!」

ぱあっと花のような笑みを開かせた瀬里の顔を見て、彼女がどれだけの気持ちを込めてくれたのかを思う。どれだけ自分が思われているのかを知る。

心の底から愛おしさが沸き上がり、今すぐにでもベッドに連れて行って瀬里のすべてを奪いたい衝動を堪え、凪は黙々とタルトを口に運ぶ。