マグカップを二つ、白木のローテーブルに置いた凪が生真面目にわたしに断りを言ってから、ソファに隣り合わせに腰掛ける。
吸い寄せられるようにその横顔からも視線を外せないわたしは、無自覚で『凪欠乏症』がかなり重症だったのかもしれない。

一口、珈琲に口を付けた凪がカップをテーブルに戻すと、おもむろに身体をこっちに傾けた。
闇色の眸が静かにわたしを捉えて。・・・心臓が大きく跳ね上がった。
手が伸びてきて少しぎこちなく頬に触れられる。指先で確かめるように肌をなぞられる。それだけでわたしの奥底がぞくりと戦慄いて。微かに躰ごと震えた。

「・・・話したいことは沢山あります。ですがその前に、お嬢が望むことを言ってください。どんな事でも聴きます、・・・凡て」

低く透る声が細胞中に染みわたってくる。
離れてる間どれだけ聴きたいって渇望したか。わたしを呼ぶこの声を。

「・・・・・・瀬里・・・って呼んで」

いつしか頬は大きな掌に包まれて。その温もりに身を委ねるようにそっと目を瞑った。・・・一つ目の命令。


名前で呼んで凪。