後片付けは自分がすると、凪はわたしをリビングのソファから立ち上がらせてくれない。

テレビは人気のバラエティ番組を放映してたけど、半身を後ろに向かせてずっと凪の背中を追ってた。
どこに何があるのかを憶えようとしているのか、カップボードの扉や流しの吊戸棚、引き出しを一つずつ開いてる仕草とか。前はキッチンにいる凪を本当に当たり前に思っていて、作ってくれる食事のお礼は言えても、作業に目を留めたことは無かった。

白いシャツの袖をまくった後ろ姿が。こんなにも愛おしく思える。
いてくれて、帰って来てくれて。言葉じゃ言い表せないくらい胸がいっぱい。今すぐその背中に飛びつきたいのを我慢しながら、一秒も目を逸らすのがもったいなくて。・・・飽きもしないで見つめてた。

「お嬢」

水が流れる音と一緒に振り向かない凪から声が掛けられた。

「珈琲でいいですか」

「あ、うん・・・っ。ありがと凪」

わたしが見てるのを気が付いたのかと一瞬、恥ずかしくなる。
まるで片思いの先輩を遠くからこっそり覗き見してる女子高生みたい。自分で思って内心でクスリと零す。と。

「・・・そんなに見られると背中に穴が空きます、瀬里お嬢」

やっぱり振り向かずに、淡々とした口調が唐突に返った。
でもどことなく愉しそう? それとも気のせい?