「あ・・・うん」

何だか曖昧な返事になったのは、二人でキッチンに立つって恋人同士みたいなシチュエーションがやっぱり夢に思えたから。
手が止まって、隣りを見上げたままじっと凪に見入ってしまう。

「・・・どうかしましたか」

感情が表に出ない端正な表情も相変わらず。でも顔付きが何ていうか引き締まった感じになった。前よりも男っぽさが増した・・・かな。
こっちを見下ろしてる眸を少し細めた仕草に、心臓が跳ねて思わず目を逸らした。

「ううん。あのじゃあ、お味噌汁に残ってる野菜つかっちゃいたいから、ジャガイモと人参の皮剥いてくれる? あと・・・冷凍庫のブロッコリーは炒め物にするから解凍して?」

「分かりました」

わたしの後ろを通って冷蔵庫の前に立ち、扉を開けた凪の背中を目で追いながら。

「凪」

不意に名前を呼んでいた。

何が言いたかったのか。自分でも分かってないで、振り返った凪と目が合う。
さっきはちゃんと云えてなかった言葉をもう一度、心をこめて言いたいって思った。

「・・・お帰りなさい。無事に帰って来てくれて・・・ありがとう」