本条さんの話では凪は今、支倉の組長さんの息子さん、つまり次期組長の奥様の警護を任されてるんだとか。
支倉の『若』は、結婚したての歳の離れた奥様を溺愛していて、組長の娘であるわたしのガードを長年務めたキャリアを買われたらしい。

若の覚えも良く、このまま行けばそれなりのポストに取り立ててもらえるかも知れない。と、本条さんはまるで自分のことみたいに自慢げに教えてくれてた。
とは言え他所者の凪に、周囲の風当たりは決して優しいはずも無い。そんな中で寡黙に闘ってる凪を思えば。

「向こうのほうが大変なのは分かってるし、その間に自分もレベル上げとかないとだし。料理も家事も一から教え直してもらってる最中で、泣いてるヒマもないかな」

ホットココアのほろ苦い甘みを舌に溶かしながら、今度はしっかりと笑み返した。
すると結衣子がわたしをじっと見て、声は真面目に言った。

「セリってさ、ちょっと普通のコと違うよね。見た目は大人しめな美人だけど、芯が強いってゆーか。ただの運転手付きのお嬢様ってワケじゃなかったりする?」