11月に入ってすっかり陽が落ちるのも早くなった。
退社時間に本条さんが迎えに来る頃は、濃紺の敷布を広げたみたいな夜空に変わって。冬がもうすぐ傍まで。

「お疲れさまでしたお嬢!」

ビシッと挨拶しながら後部ドアを開け。わたしが乗り込むのを待って、外から閉めてくれる。

今になって気付いたこと。
凪は。一緒に暮らし始めてからずっと、わたしを隣りに座らせてた。だから自然と自分で助手席に乗るクセもついてた。それって分かりにくかったけど。もしかして『お嬢じゃない特別な存在』・・・としてだった?

胸の内で小さく困り笑いを零す。
ほんと。不器用ね凪は。

車が走り始めて、本条さんにひとつお願いごとをした。

「どこかスイーツのお店に寄ってもらっていいですか?」

「ケーキとかですかね?」

ルームミラー越しに視線を傾げられる。

「できたらフルーツタルトが美味しいところがいいかなって」

「承知しました」

本条さんはニッカリ笑うと、カーナビと会話しながら、いつもは曲がらない交差点をゆっくりを左折したのだった。