「おはようございます、お嬢!」

玄関先で勢いよく一礼するスーツ姿の本条さんは、今日も朝から元気だ。

「荷物、お預かりします」

バッグとお弁当箱入りのトートぐらい自分で持つって言っても、自分の役目だとかって聞き入れてくれないし、凪はそれほど『お嬢』扱いしてなかったんだと意外だったっていうか。あ。もちろんイイ意味で。

朝夕、黒の高級セダンで会社に乗り付けると目立って、送迎向きじゃないから止めて欲しいってお父さんに頼んだら。色違いの白になった。・・・そういうことじゃないんだってば。




「おはよ~、セリっ」

「おはよう結衣子」

「いいなあ、運転手さん付きの通勤は楽そうでー」

「それはそれで融通が利かないんだけどね」

エレベーターホールで一緒になった結衣子に冷やかし半分で言われて、苦笑いで返した。
突然に凪の送り迎えが無くなった理由を結衣子には、『彼氏が家業を継ぐ為に3年間の修行を言い渡されて、遠距離恋愛で一緒に暮らせなくなった』と説明してあった。

実家から通うのは大変だから送迎してもらってる。そう付け足せば、どんな家業だって目を丸くされた。でもわたしが困ったように口を濁すのを、それ以上深く追及したりはしない。何でもお構いなしの性格に見えても、踏み込む場所は弁えてくれてる。・・・そんな彼女だから、気が置けないんだと思う。