もっとずっと話していたかった。声を聴いていたかった。この通話を切ったらもう。思えば思うほど切なくて辛くなる。引き延ばせば引き延ばした分、切りが無くなってしまうから。

スマホを握る指にぎゅっと力を込めて言った。

「・・・・・・凪。電話・・・、凪から切って」

凪も黙って。しばらくお互いに沈黙が続いた。

『・・・瀬里お嬢』

低く透る声。

『・・・・・・行ってきます』

凪からこの挨拶を聴くのはそう言えば初めてだった。
大事な人を送り出す時の気持ちって本当に。愛おしいに尽きるのね。

「泣かないで待ってるから。気を付けて・・・行ってらっしゃい」

心を込めて。無事を祈って。再会を信じて。

強く未来を願って。

「愛してる・・・凪」


何か言いたげな間が空いて、でも何も云わずに。凪は通話を切った。




わたしは画面の消えたスマホを胸に抱いてやっぱり泣いた。
明日からは泣かないから。
言いながら枯れるまで。・・・・・・泣ききった。