「エッ、あ・・イヤ、どうだったですかなぁ・・・?」

変な笑い方をして頭を掻きながらほんの一瞬、多紀さんが狼狽えたように見えた。

「じゃあわたし、ちょっと車見てくる」

「ア・・・ッ、いえお嬢、そういやさっき出かけるとかナントカで・・・!」

まるで引き留めようとするかの笑いの裏に、どこか切羽詰まった必死さが見え隠れして。さすがにその挙動に不審さを覚えた。

「・・・多紀さんなにか隠してる?」

「イヤその」

じっと見つめれば、居たたまれなそうに視線を泳がす多紀さん。

「凪はどこ?」

問い詰めながら確信していた。凪はいない。胸の奥がにわかにザワつく。

返事を濁しながらはっきり答えない多紀さんに業を煮やして、玄関に向かって体を翻しかけた。その手を思ったより強い力で掴まれ振り返る。

「な・・・っ、離してっ」

「お嬢いけませんや。大島は戻らないんで」

今度は逸らさずに目を細め、真顔で返ったのを。わたしは。



大人になって初めて人前でポロポロと涙を零し。凪を呼びながら。迷子の子供みたいにむせび泣いた。