『・・・分かっているわよね瀬里。武史さんが意地悪で言ってるんじゃないってこと。甘え合うのは大島の為になりませんからね。二人の将来を真剣に考えてくれているからこそ・・・なのよ?』

お父さんと幸生が応接間を出て行ったあと。お母さんが優しく手を握って微笑んだ。
涙ぐむわたしを励まして、しっかりしなさいと見えない手で背中を叩く。

『大島を信じて、その間に瀬里は花嫁修業で存分に女を磨きなさいな。三年なんてきっと、あっという間ですよ』





着物から着替え二階の自分の部屋で,お気に入りのソファに脱力して寝転がる。
俯せにクッションに顔を埋め、どうにかこれから先のことを考えようと。
お母さんのお陰で少しは気持ちも落ち着いた。それでも。三年っていう長さは今はまだ、果てしなく先のことにしか思えない。

不安で、不安で、不安で。
心細さでどうしていいか分からない焦燥感に苛まれる。

凪は?
凪はどう思ってるの?
寂しくないの? 離れても平気なの・・・?!

そう思ったら居ても立っても居られない。凪の気持ちを確かめたくなってソファから勢いよく躰を起こす。
お見合いの前にちょっと話したきり、そう言えば姿を見せない。何か用事でも言いつけられたのかな。1階に下りて多紀さんに声を掛けた。

「ねぇ多紀さん。凪、知らない?」