「なら話は決まりだ瀬里、マンションは引き払わせる。荷物は今夜中に必要なモンだけ運ばせとくから、明日から仕事もここから通いな」

「通いなって、そんな急に・・・?!」

思わず目を剥いた。

「お前のことは本条に任せた。心配は要らねぇよ」

「そうじゃなくて! ちょっと待ってよ、お父さんっっ。こんなすぐなんて勝手すぎじゃない・・・っ」 

あまりの急展開に驚いて、抗議の口調になる。

いくら何でも、今日の今日とは思ってなかった。いきなり家に戻れだの、明日からは本条さんが付くだの、これって前から計画的だったの?!

眉を顰めて顔付きを険しくしたわたしに、お父さんは。いつもみたいな娘への甘さは覗かせなかった。いつになく厳しい気配を眉間に漂わせ、まるで耳を貸さないように更に言い重ねた。

「大島には三年くれてやった。それで実にならねぇ時は、瀬里との結婚は破談だと言ってある。お前も三年の間は、大島に会うのも連絡も一切無しだ。出来ねぇなら金輪際、大島に春日の敷居は踏ませねぇさ」


その時の父が、わたしには仁王に見えた。
絶対に覆らない決定事項。泣いてもすがっても聞き入れてもらえないんだと。
ただ茫然として。魂の抜け出た死人のような顔をしてたかも知れない。

三年も凪に会えない・・・・・・?
声も聴けないって。そんなの。

自分がカラカラに干からびた骨だけの残骸になった。気がした。
凪がいない毎日なんて。だって考えたこともない。

「・・・そのぐらい本気だってところをお前も見せねぇとな」

最後は諭すように掛けられた言葉も、スカスカの躰を通り抜けて。
どこかに落ちて行っただけ。・・・・・・だった。