車の中で俺は、高瀬にどうしてフランス語を話せる事を内緒にしていたのかを聞いた。

「ルイが、ネイティヴに近いと言ってたけど…」

そう。
あれから、ルイと電話やメールで高瀬はやり取りをしているが、そつなくやってるらしい。
俺が見てるだけでも、確かに日本の書類を英語とフランス語に起こしているが、完璧なものだった。
ルイが言うのも分かった。

「子供の頃、フランスに住んでいた事があるんです」

そう言った高瀬に、出来る事を何故言わなかった?と聞くと、

「あまり目立つ事したくなかったんです」

と。
普通は、自慢したがるものなのに、何故?とは思ったが、人それぞれ。
追及はしなかった。

運転中、視線を感じ横を見ると、高瀬が俺を見ていた。
そして、視線が合い、すぐに下を向いてしまった。

そんな高瀬を見ていて、匠の件がやっぱり納得出来なくて、高瀬に謝った。

「あいつなりに、親父から何か言われてるからの行動なんだ。最近、度が過ぎてて、気分をがいしただろ?」

「室長は当然の事をしてるだけです。ただ、迫られるのは慣れてないからやめて欲しいんですけどね」

こんな時でも、匠を庇う高瀬。
しかも、迫る、とは。
あいつ…

「そんなに、か?」

俺としては、まだ秘書として、仕事をし始めた高瀬に、ちょっかいを出しているとは思っていなかった。なのに…

「わりと何かある度に、キスしようと迫られますね」

「あいつ…」

俺から離そうとしているだけ、なのか匠の本心が見えないだけに、胸騒ぎがしていた。