「高瀬…」

「は、はいっ」

名前を呼ばれ、顔を上げた。

「匠の事だけど、その…すまなかった…」

「室長ですか?そ、そんな…」

専務から謝られても困る。
何も悪くないのに…

「いや、あいつも親父から何か言われてるみたいで、俺の事を心配してくれてるんだけど。最近、度が過ぎててな、気分害しただろ?」

「そ、そんな。室長は当然の事をしてるだけですよ。ただ、迫られるのは私慣れてないんで…やめて欲しいんですけどね」

専務は、迫られると私が言った言葉に、反応した。

「そんなに、か?」

「何がですか?」

「迫るって…」

「あ、…はい。わりと何かある度に、私にキスしようと迫られますね。俗に言う、セクハラですか?ま、室長は本気じゃなく、あくまで私をからかってるだけなんですけど…」

自分で言ってて、悲しくなってくる。

「あいつ…」

「でも、大丈夫ですよ。最近はそこらへんが、分かるようになったんで」

「そうか、だけど、ちゃんと言っておくよ。本当にすまない…」

「いえ…」

そんな話をしていると、いつの間にかホテルに着いてしまった。
この時間が続けばいいと、思っていたけれど、許されなかったみたい。

駐車場に車を入れて、専務と二人でロビーに向かった。


ブリリアントホテルに来るのは久しぶり…やっぱりいいところだな。

専務とは違う形で来たかったな…

「受付けは、10階だな。行こうか」

「はい…」

アスランの創立30周年のパーティの案内が見えた。

10階の大広間を使ってるという事は、かなり大規模だという事が分かった。

エレベーターに乗り込み、10階のボタンを押した。

横で専務がにこやかに話をしていた。
この時間が永遠に続けばいいと、思っていた。