「し、室長」

「逃げますか…」

バンッ

「匠、何やってんだ!」

急に、専務が部屋から出てきた。
そして、室長に掴みかかった。

「冗談だよ。冗談」

顔色ひとつ変えず、室長は笑った。

「な、なに?」

室長が、胸にかかった専務の両手を握り外した。
そして、胸を払いながら続けた。

「からかい甲斐があるからね、君の秘書は」

専務の表情が変わった。

「お前!分かってやってるだろ!俺に殴られる前に、ここから出て行け!」

「はいはい。分かったよ。じゃ、高瀬君またね」

「は、はい」

目の前で起こる出来事に、ついていけてなかった。
今のはなんだったんだろう。

「高瀬」

「は、はい」

私に背を向け、表情が見えない専務に声をかけられ驚いた。
そして、専務は私に頭を下げながら、謝ろうとした。

「すまない、た、氷室のした事…」

「いえ、大丈夫です。室長はいつもあんな感じなので、びっくりはしましたけど」

「いつもなの、か…」

「は、はい」

「あいつ…」

専務は私が言った、言葉に何かを感じ取ったようだった。

そして、扉を激しく開けて出て行った。