「あ、あの、氷室室…」

「匠さん」

「っ、い、言えません。室長」

妖艶な笑みを浮かべた室長の顔が近づいてきた…

「ククッ、冗談ですよ。高瀬さん」

冗談、と言いながら室長は私から離れた。

じ、冗談!
またやられた…
この色気だだ漏れな室長に。

きっと顔が真っ赤になってるだろう。

仕事以外で気を使わなければいけない事に、ため息が漏れた。

「し、室長!用事はなんでしょうか?」

「イタズラが過ぎましたね。専務の携帯番号を、教えるのを忘れてたんでね。専務から私に聞きなさいって言われたでしょ?」

「はい。言われました」

室長は、下を向く私に番号を書いた紙を手渡した。

あれ?なんで二つも?
携帯二つ持ち?

「一つは私の番号です。いつでもどうぞ」

「あ、は、はい」

ここぞとばかりに、室長は攻めてくる。
楽しいんだろう、私をからかうのが…

はぁ。

「お遊びはこれぐらいにして、本題に入りますね。高瀬さん」

「へ?」

本題?
唐突過ぎて、ちゃんと受け答えが出来なかった。

「本題って…」

「えぇ、本題です。さっきの秘書室での事ですが、乾君の度が過ぎる新人イジメが気になってましてね。専務が君を指名したのに、耐えられなくなって辞められると、私が困るのでね 」

あぁ、あの人いろんな人に絡んでたんだな。

「私なら大丈夫ですよ。デスクはここですし、室長のに所に行く事が多くても、秘書室に関しては数分じゃないですか。心配はご無用かと?私、結構図太いですよ、その辺は」

「そのようですね、さっきの対応でなんとなくは…。安心しました」

「前任の専務はお飾りで彼女を置いてたんでね、なかなか私の意見がその辺は通らなくてね。私としては、玉の輿に乗りたいが為に秘書になった不毛な人間は排除していくつもりなんでね。高瀬さんみたいな人が貴重なんですよ」

ニコッと微笑まれ、また騙されそうになる。

「いえ…」

それでは、と室長が部屋を出て行った。出て行く時、室長はなぜか頭をポンポンと撫でていった。

なんなのー!

私、崩壊寸前です。