「失礼します」

氷室室長の後に続いて、専務室に入った私。

顔を上げると、氷室室長の前に背の高い男性が立っていた。
美玲が言うように、確かにイケメンだ。氷室室長が端正な凛々しいイケメンなら、如月専務は目元が優しい可愛い系のイケメンだなと。

そりゃ、周りが放っておかない、わな。

「…瀬さん、高瀬さん?」

「は、はいっ」

何、自己分析してんだろ、私。
仕事仕事。

「ボーッとしてたけど、大丈夫ですか?」

「はい、すみません。大丈夫です」

「では、如月専務、彼女が高瀬涼香さんです。今日から勤務でよろしいですか?」

「ん、頼む。早く慣れてもらわないと困るからな」

「かしこまりました。と、いう事です。高瀬さん、大丈夫ですね?」

「え、はい。高瀬涼香です。よろしくお願いします」

そう言いながら頭を下げた。

「如月だ。分からない事は、この氷室から聞いて仕事は、進めてくれ」

「はい」

では、行きましょうかと氷室室長に言われ、専務室を出た私。

ため息もつく暇もなく、仕事を詰め込まれた。

まずは、スケジュール管理から。
如月専務の1日のスケジュールからその先までを頭に入れろ、と。
そして、電話。
かかってきた電話を選別するのも、秘書の仕事。
繋いでいい相手のリストを氷室室長から預かった。
新しいのは自分で作りなさい、と。
笑顔なんだけど、怖い…

後は、書類やパソコンに届いたメールのチェック。
甘くは見ていなかったけど、これなら大丈夫かな、と内心思っていた。

そんなこんなで、今日は1日氷室室長が横について教えてくれた。

「明日からは一人ですよ?」

と事あるごとに、言われたけど。


怒涛の1日が終わった。





コンコン

「私です」

「ん…」

「お疲れ。蓮」

「お疲れ。匠、どうだ?高瀬は」

「彼女、ただもんじゃないね」

「そうなのか?」

「頭の回転は早いし、順応性があるよ。蓮の秘書にしておくのがもったいないぐらいだよ。なんなら俺の補佐に欲しいぐらいだけど?」

「は?何言ってんだよ。しかし、匠がそこまで言うなら本物だな…」


涼香は自分が帰った後に、如月専務と氷室室長が話していたことなんて、知る由もなかった。