どうぞ、と氷室室長に役員用エレベーターに案内された。

IDカードをかざしエレベーターが開く。乗り込み、何も言わず10のボタンを押した。

無言のまま、エレベーターが動き出した。

「緊張してますか?」

急に話かけられ、返事に戸惑った。

「あ、あの…」

「ふふっ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?私はあなたの味方ですから。心配事があれば言って下さい?」

味方って…

「わ、わかり…」

分かりました、と言い終わる前にエレベーターが到着した。

「どうぞ」

降りるよう促され、エレベーターを降りた。

役員室がある階は特別。
廊下は、ふかふかの絨毯がひかれ、壁紙もシックな色合いで統一されていた。所々に花も活けられており、良い匂いが廊下一帯を包んでいた。嫌でも、ここが別世界だと思い知らされた。

ここでやっていかなきゃいけないんだ…

【専務室】

と壁に貼られたプレートも、下の階とは全く違う物だった。

「ここですよ、あなたが働く場所は…」

「はい…」

下唇を噛み、覚悟を決めた。
なるようにしかならない。
これぐらいどうってことない!って。

ノックはせず、ドアを開けた氷室室長は中に私を通した。

意を決して入ったけれど、中には誰もおらず、左手に大きめな高級感漂うデスクが置いてあった。その奥に続くドアがあった。

「あそこが高瀬さん、あなたのデスクです。そして、その奥が専務室になります」

「は、はぁ…」

こんなに奥行きあったんだ、ここって…
部屋の大きさに驚いていた。
そんな私をよそに、氷室室長が奥の扉に行くよう案内する。

コンコン

氷室室長がドアのノックすると、中から男性の声が聞こえた。

「はい」

「氷室です。高瀬さんを連れてきました」

「どうぞ」

「失礼します。さ、高瀬さんも」

「は、はい」

氷室室長に続いて、専務室に足を踏み入れた。