「では、これで私は失礼いたします」

そう言い残し、氷室室長はミーティングルームを後にした。

「…君、高瀬君!」

はっ…

「大丈夫かい?高瀬君」

氷室室長の破壊力に固まってしまった私は、鳥越部長に何度か呼ばれるまで気がつかなかった。

「す、すみません」

「まぁ、あの氷室室長にあんな風に言われると、そうなってしまうのも分かる気もするがな。すまないね、今回の異動の件に関しては、どうにも出来ないんだよ」

「ダメ、なんですか…」

どうにも出来ない、と言われ肩を落とした。
そんな私を見た鳥越部長が続けた。

「総務の水野にも言われたんだよ。出来る人間だから、高瀬の異動はダメだってね」

「え?」

びっくりして顔を上げた。

「今回の異動に関しては、急な事もあったから内情を少し話すとね、高瀬君も水野が社長と親戚なのは知っているよね?」

小さく、はい、と頷いた。

「その水野が高瀬の異動はダメだと、止めたんだが、聞いてもらえなかったんだよ。分かるだろう?それがどういう事なのか…」

それを聞いた瞬間、あぁ無理だと。親戚関係でもある水野部長が止めても無理だったら、誰も口出しは出来ない、そう確信した。

「分かりました。どう動くかは来週にしか分からないんですよね?」

「あぁ、そうなんだ。週明けに、詳しく話をする予定なんでね」

「分かりました。総務の仕事まとめておきます」

そう言って私は、椅子から立ち上がった。