「あ、氷室室長。ちょうど、今話していた所なんだよ」

人事部部長である、鳥越部長も一目置いてると噂される氷室室長…
如月社長の秘書として、絶大なる信頼を得ているとか、美玲から聞いた事があった。
その場にいるだけで、空気が変わる。

凄いオーラだ。

「どこまで聞いたのかな?高瀬さん」

「あ、あの…」

「氷室室長、今高瀬君には来週から秘書課への異動、というとこまでしかはだ話していないんだよ」

「まだ詳しい事は聞いてません」

「そうでしたか、少し早く来過ぎたようですね」

そう言いながら、氷室室長は私の横に座った。

「異動の件、納得いかないんです。どうして、私なんでしょうか?」

決まってしまっている事は、分かっていたけれど、聞かずにはいられなかった。

氷室室長は、表情を一変した。

「これは決定事項です。変える事も出来ません。高瀬さん、あなたを指名したのは専務です。専務専属の秘書をしてもらいます」

せ、専務?
頭の中で、専務の顔を思い浮かべてみた。
ダメだ、混乱して思い出せない。

「で、でも、私、秘書検定も秘書の経験もありません。お役に立てるか、逆にご迷惑をかけるのでは…」

「あぁ、その点なら大丈夫です。総務部の水野部長からも、君のスケジュール管理に関しては、しっかりしたものだと報告を受けています。総務部での仕事ぶりも、秘書課で仕事する上でなんら問題はないと、そうですよね?鳥越部長」

「もちろん。総務の水野から、仕事はきっちりしている、任せていたら安心すると常々、話は聞いている」


「ま、そう言う事なんで、詳しい話はまた来週辞令が出たら話しますよ。では、これで」

声の出ない私を置いて、氷室室長が席を立った。
そして、顔を近づけて囁いた…

「来週から、楽しみにしてますよ」

端正な顔立ちの氷室室長に微笑まれて、さらに動けなくなってしまった。