「どこに行く気だ?」

「あ、あの電話を…」

電話と言った、その手に握っていた電話を取られてしまった。

「な、何するの!兄さん返して」

「さっきの話、真剣に考えとけよ。如月辞めて、こっちに戻ってくる事を」

「え?お父さんがもしも、の時の話よね?」

「ん?まぁな、俺は親父が言ってたみたいに、お前に会社は任せたいと本心では思ってるんだぞ?それは忘れるなよ?」

「…分かった…」

「涼香、あっちに電話使えるスペースあるよ、かけといで」

「うん。かけてくる」

瑠璃が、兄から取った携帯を渡してくれた。
私は、そのまま後ろを振り返らず電話をかけに行った。

「兄さん、本気なの?涼香にって」

「ん?元々、あいつが親父から後は頼むって言われてたんだぞ?瑠璃は知らないだろうけどな」

「え?そうなの?」

「…瑠璃、お前も幸せな奴だな。俺だって医者になるって医大に行って、研修医だったじゃないか。あの時、会社を回してたのって、涼香だったんだよ」



「…もしもし?蓮さん?ごめ…」

「涼香!どこにいる?」

ごめんなさいという言葉がかき消された。
着信履歴が何件も入っていたのだ。

「ごめんなさい、父が倒れたって連絡があってすぐに出たんです」

「え?そうなのか?で、大丈夫なのか?お父さん」

「…はい、まだ安心出来る状況じゃなくて…」

「そ、そうか。こっちは心配しなくていいから、安心して休むといいよ」

「… で、でも…」

「また、連絡して。匠には説明するから」

「はい、分かりました。すみません…」

声を聞いて安心したのか、それともそばにいて欲しかったのか、私は泣いていた。