専務…

私の気合いなんて、弱いものだと思った。専務の姿を見るだけで、こんなにも心がドキドキするなんて…

「風邪ひきますよ…」

そう言いながら、クローゼットから毛布を取り出して専務にかけようと、手を出した…

「おはよう」

その手を専務に握られていた。

「せ、専務。おはようございます。て、手を離して下さい」

「嫌だ」

え…どうして

「は、離して下さい…」

「嫌だ、って言ったら?」

そう言うと、専務は私の体を引っ張ってソファに押し倒した。そして首元に顔を埋めた。

「せ、専務…」

「見合いしたん、だって?」

耳の横で囁いた。

「え?あ…」

この間の事を言ってるんだろう。
室長が言わない選択があるなんて、思ってなかったけど、言うの早すぎでしょ…

「否定しないんだな…」

「せ、専務も、お…お見合いされたじゃないですか、同じですよ。離して下さい。夏帆さんに悪いです」

夏帆と名前を聞いても、専務は掴んだ手を離す事はしなかった。そして、空いた片手で私の頬をなぞった。あの時の夜と同じように…

そして、いきなり体を起こし、背広を掴むと私を連れて専務室を出た。

「カバン持って」

「え、…」

「早く、行くよ」

言われるまま、デスクに置いた自分の鞄を取った。そして強引にエレベーターに乗せられた。

専務は一言も喋らず…

「ど、どこに行くん、ですか…」

「………」

「専務!」

エレベーターは地下駐車場までノンストップだった。
そして、専務の車に乗せられた。

乗せられたと同時に、室長の車が駐車場に入ってきたのが見えた。

あ、と思った瞬間、専務は室長の制止も聞かず車を発進させた。

無言のまま、専務はどこかに車を走らせていた。
そして、私の携帯に室長から電話が入った。
出ようとする私から、携帯を奪った専務は電源を切った。

そして、自分の携帯の電源も切ってしまった。

20分ほどして車が停まった。

「ここは…」

「降りて、俺の家」

「え?せ、専務」

専務は私を車から降ろすと、また無言のままエレベーターに乗せた。
何を考えているのか、分からなかった。
強引だけど、優しさが感じられるその行動にどうしていいのか、分からなかった。

エレベーターが20階に着いた。
そして、ある部屋の前で鍵を開けて、ドアを開けた。

「入って」

言われるままに、部屋に入った。

「え?ど、どうして…」

入った瞬間、後ろから専務に抱きしめられていた。何が起こっているのか、頭がついていってなかった。ただ…

「…高瀬。やっぱり、あの日俺と一晩過ごしたのはお前だろ?」

涙が頬を伝わっていた。